健康ニュース 2001年6月1日送付 発行部数 757
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・健康スポーツ関連施設連絡協議会が活動開始
 平成13年5月24日(木)に健康スポーツ関連施設連絡協議会が正式に発足しました。兵庫県医師会健康スポーツ医学委員会の委員長でもある河村剛史兵庫県立健康センター長が会長に就任しました。現在30施設が加盟しております。本協議会の目的は、生活習慣病予防対策の一環を担い、高血圧、糖尿病、高脂血症患者に対して処方される運動処方箋を受けて、適切な運動指導を行う運動処方受け入れ施設の充実です。協議会では、2年間8回の研修会を開催する計画(8単位)で各疾患別講義に加え、運動処方の統一したマニュアルを作成し、各施設間の運動トレーナーのレベル向上を目差し、8単位終了した受講者には終了認定書を与える予定です。さらに、本協議会ホームページ(http://www.health-jp.net)に生活習慣病予防に対するマニュアルを掲載し、担当講師とのQ&Aのコーナーにて各施設での経験を共有する方式を現在、準備中です。平成13年6月28日には、第2回兵庫県郡市区医師会健康スポーツ医担当連絡会が開催されることになっており、加盟施設と郡市区医師会健康スポーツ医との話し合いを始めることになっています。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」?生きていた阪神・淡路大震災の心
 兵庫県立健康センター 所長
  河村剛史

 JR新大久保駅でのホームからの転落事故死は「勇気の死」としてマスコミで大きく報道され、大きな話題になった。今回の神戸で起こった転落救助は地方紙に取り上げられた程度で、大きなニュースにはならなかったが、これこそ今の日本社会に求められている理想の善意の姿である。
 平成13年5月4日の朝、神戸の神戸高速鉄道長田駅で、目の不自由な男性がホームから転落し、居合わせた乗客3人が線路に飛び降りて助け上げた。その直後に電車が到着したが、男性は左足を骨折しただけで助かった。新聞報道によると、転落したのは川西市の男性(59)で、乗り換えのため、つえをつきながらホームを歩いていて誤って1.2メートル下の線路に転落した。 向かいのホームにいた池本悳持(とくじ)さん(66)が、白いつえをつきながらホームの東端へと進む男性を見つけ、「危ないで」と叫んだ直後だった。 池本さんは、ホームにいた男性2人とともに線路に飛び降り、駆け付けた同駅員と4人で男性を引き上げ。 1から2分間の出来事で、3人は面識がなかったが、連係プレーで助け上げた直後に電車が線路内に入ってきた。池本さんが男性を介抱している間に、残りの2人は後続の電車で立ち去ったという。池本さんは「ほっておけなくて思わず飛び降りた。大事に至らずよかった」と話していた。 神戸市長田区は平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の時に火災が発生し、多くの犠牲者を出した地区である。震災現場では、倒壊した家屋から必死の思いで抜け出した住民同士が瓦礫の下に埋もれ残された家族に必死に声を掛け、声の応答があった人から優先して救出にあたった。こうした震災現場で住民の行為は、「まず助かる人から助け出す」という災害医療での"トリアージ"の概念が自然の形で行われていた。別な言葉でいうと、大災害は命の集団的危機であり、その場の限られた力の中では、多くの死に瀕した命の中から助かる可能性のあるものから救助の優先順位を決定せざるを得ないのが現実であった。そして、すべての人が死ぬ思いをした環境下では、すべての人が一致団結して救助する人間の本能的行動が見られた。
 それに反して、心肺蘇生法の世界は、平穏無事な環境の中で、目の前の人が突然倒れるという倒れた人の個人的危機である。心肺蘇生法による救命行為には、単に心肺蘇生法を行うだけでなく、正しく行われているか見守る人、救急車を呼ぶ人、救急車を誘導する人、激励する人など、一人の命を救おうとする多くの人の助けが必要である。その為には、目の前で倒れた人の命の危機を周辺に知らせる人がいるかが命を左右すると言っても過言ではない。事実、目撃者による心肺蘇生法の救命率が一番優れている。心肺蘇生法の話しの中で、私が一番強調している所である。
 今回の転落事故では、池本さんが「危ない」と叫んで、線路に飛び込み、そこに居合わせた2人も救助に協力しており、JR新大久保駅での転落事故とは大いに異なる救助活動である。そこには、「命の危機」の叫びの呼応した人の集団救助活動が見られ、阪神・淡路大震災で「命の危機」を経験した人達の共通の行動心理が働いたものと考えている。救助協力した2人は、面識もなく、「当然の行為をしたまで」と言わんばかりに名も告げず次の電車で立ち去ったことも、心肺蘇生法の心の啓発活動をしている私に大きな活力を与えてくれた。
 JR新大久保駅で関根史郎さんと韓国人の李秀賢さんの見知らぬ2人を救助活動に駆り立てたのは「山男の心」であると述べたが、今回の救助活動は、阪神・淡路大震災で「命の危機」を経験した人達が行った行動であり、神戸市長田区に今だ生きている「阪神・淡路大震災の心」と思っている。

 続く
バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・生体の細胞膜を構成しているリン脂質について
 血清脂質には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、脂肪酸があります。脂質は重要なエネルギーであり、約40兆個ある人間の細胞の中の生体膜(細胞膜、核膜、ミトコンドリア膜)の重要な構成成分です。最近の研究で、細胞の生体膜から色々なホルモン(脂質メディエーターと言う)が産生されることが明らかになりました。人間の細胞膜はリン脂質の2重膜構造になっており、リン脂質はレシチンとも言い、グリセリン、水となじむ(親水性)リン酸化合物(フォスフォコリン)と水をはじく(疎水性)脂肪酸からなっています。外敵や異物から生体を守るために生体膜リン脂質にプールされている脂肪酸を材料にして、エイコサノイドという脂質メディエーターを合成する機構が存在しております。グリーンランド島のエスキモー人と同じ島に住むデンマーク人との比較研究にて、総エネルギー摂取量の35から40%に相当する脂肪を摂取していながら、エスキモー人の方が虚血性心疾患は少なく、コレステロールは低値で、HDLコレステロールは逆に高い結果を得ました。エスキモー人は不飽和脂肪酸の1つであるEPA(エイコサペンタエン酸)を多く含まれる海獣や魚を主食としていることが虚血性心疾患の発症が低いことが推測されました
。その後の研究で、生体膜リン脂質から合成されるエイコサノイドが、生体膜を構成する脂肪酸の種類によって異なることが判明しました。こうした一連のアラキドン酸カスケードの研究に対してバリストレーム、ヴェイン、サムエルソンらに1982年度ノーベル生理学・医学賞が与えられました。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・第23回日本健康増進学会の努力目標は、インターネット学会の実現
 平成13年11月1、2日の開催する第23回日本健康増進学会の学会ポスター、プログラムは関係団体に配布し、学会の準備は順調に進行しております。残る課題は、努力目標であるインターネット学会の実現です。教育講演、オーディオ・ビジュアルセッション、ITセッションのインターネットによるリアルタイムの全国同時発信を予定しています。学会終了後では、学会内容のオン・ディマンド発信を行い、学会に参加できなかった方にも本学会は発信する「21世紀の健康づくりビジョン」を知っていただきたいと思っています。この学会を通して、21世紀の新しいIT時代にふさわしい学会形態を提示したいと意気込んでおります。

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▼【兵庫県内の話題】

・兵庫県健康財団会長に家森幸男京都大学名誉教授が就任
 急増する生活習慣病を予防するために平成13年度から「健康ひょうご21県民運動」がスタートしました。この県民運動の実施主体である兵庫県健康財団の会長に家森幸男京都大学名誉教授が就任されました。
 家森会長は、昭和42年京都大学医学部大学院を修了後、京都大学医学部助教授、島根医科大学教授、同名誉教授を経て、平成4年から京都大学大学院人間・環境学研究科教授、ハバート大学、神戸学院大学客員教授を歴任され、平成13年京都大学名誉教授となられました。平成13年から兵庫県健康財団会長に就任されました。脳卒中ラットの開発者として国際的に有名で、現在、WHO循環器疾患専門委員、WHO循環器疾患予防共同研究センター長などを併任されておられます。科学技術庁長官賞、日本脳卒中学会賞、米国心臓学会高血圧賞、日本循環器学会賞、美原脳血管障害研究振興基金美原賞、上原生命記念科学振興財団上原賞、フランスリヨン大学名誉博士号、全国日本学士会アカデミア賞、岡本賞、ベルツ賞などを受賞されております。著書は「長寿の秘密」「長寿と日本食」「死ぬまで元気に食べ方革命」「長寿の秘訣は食にあり」「長寿食世界探検記」など多数。新聞、雑誌の執筆、テレビの健康番組のコメンテータとしても大活躍中されています。

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▼【兵庫県外の話題】

・5月31日の「世界禁煙デー」について
 1987年5月の第40回世界保健機関(WHO)総会において、WHO発足40周年に当たる1988年4月7日を「世界禁煙デー」(World No-Smoking Day)とすることが決議され、さらに、1989年5月の第42回WHO総会において、同年以降毎年5月31日を「世界禁煙の日」(World No-Tobacco Day)とすることが決議されました。WHOでは「世界禁煙デー」を、喫煙者に対して喫煙を控えるよう呼びかけるとともに、各国政府、自治体、団体及び個人に対して、喫煙と健康問題の認識を深め、適切に実践するよう求める日であるとしております。
 2001年5月15日には、欧州連合(EU)の欧州議会で「たばこ規制法」が成立し、「マイルド」「ライト」「ウルトラライト」など特定の種類のたばこが他のたばこより害がすくないかのような印象を与える商品名を2003年9月から禁止される見通しになりました。これに対して日本たばこ協会(JT)はヨーロッパで販売しているたばこの商標権の侵害にあたるとして欧州簡易裁判所かEU加盟各国の裁判所に禁止措置の無効を求め、近く提訴する方針を明らかにしました。ちなみに、JTのたばこ売上高は4兆5017億円です。日本におけるたばこ関連の生活習慣病による医療費、火災、休業損失などの損失コストは5兆6000億円と言われています。

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