健康ニュース 2002年11月19日送付 発行部数 1112件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・2006年兵庫県のじぎく国体の開催に向けて
 第57回国民体育大会(よさこい高知国体)が10月31日に閉幕しました。今回の特徴は、昭和39年の新潟大会から続いていた天皇杯(男女総合優勝)獲得が開催県の至上命題となっていたのが、高知県は自分サイズの大会を目指し、天皇杯を東京都に譲り、総合10位となりました。
 兵庫県は、2006年の第61回国体(のじぎく兵庫国体)を開催しますが、基本目標に「する、みる、支える県民」を掲げ、阪神淡路大震災復興への支援に対する感謝の気持ちを込め、標語は「“ありがとう”心から・ひょうごから」を掲げました。兵庫国体の特徴は、39競技を全県の51市町村で開催されます。
 兵庫県医師会では「ささえる」基本は、参加選手、観客の「命の危機管理」を目標に掲げ、開催地の管轄の郡市区医師会単位で、半自動除細動器(AED)を中核にすえた救急管理体制づくりの準備をしています。今年から県下、9箇所で医師会員対象のAED普及講習会を開催しているのはこのためです。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」−子供に対する親の絶対愛
 兵庫県立健康センター所長
  河村剛史

 2000年11月に児童虐待防止法が制定されたが、兵庫県でも2001年8月13日の尼崎市で小学1年生の虐待死事件を契機に「児童虐待防止プログラム」を作り、虐待防止強化に乗り出した。2000年の全国の児童相談所での児童虐待相談件数は18,804件に上り、さらに急増傾向にある。虐待者の62%は実母、24%は実父である。親の子に対する誠の愛情(絶対愛)があれば体罰もしつけとなる。しかし、最近の児童虐待事件は、その根底に経済困窮や家庭内暴力などがあったとしても、親の短絡的な鬱憤晴らしのように思えてならない。たとえ、虐待死に至らなく運良く児童相談所に保護されたとしても、脳の発育に最も大切な「臨界期」に受けた精神的、肉体的障害は生涯にわたり癒えない心の傷を残す。
 人間の出産は、脳が発育し頭部が大きくなりすぎれば狭い産道を通ることができなくなるので、大きくなる前の脳神経学的には未熟な脳のままで生まれざるを得ないのである。そのために新生児では自力で歩くことも食べることもできないが、出産後に脳は急激に成長し、生後1年半ではほとんどの幼児が歩き出し、話しをし、自分で食べることができるようになる。この間、新生児では約330gにすぎなかった脳の重さが、2歳児で3倍の940gに急速に増加する。新生児の脳には3兆個ものシナップスがあるが、脳の発育過程において、最初にシナップスを多めに作っておいて後で減らす「シナップスの過形成と刈り込み」による調整を行う。成長の過程で繰り返し使われるシナップスだけが強化、固定化され、使われないシナップスは失われて大人になるまでにシナップスは半減し、やがてシナップス形成されなかった神経細胞は死滅する。人間にとって脳の発育に環境因子が大きく影響を及ぼす10歳までの時期を「臨界期」といい、この期間に人間の脳は環境とキャッチボールをしながら育つのである。子供の健全な脳の成長には、両親、兄弟姉妹といった家族愛、学校での教育、教師や友人との出会いなどが大切なのである。
 1920年にインドのベンガルで、生後まもなくオオカミにさらわれ、保護されるまでの7年間オオカミの子と一緒に育った"オオカミ少女"の話が「臨界期」の重要性を物語っている。孤児院に引き取られ、カマラと名づけられた少女は、養い親のシング牧師夫妻の献身的な愛情のもとで人間として生きていくことになった。しかし、臨界期をオオカミとして育ったカマラの脳神経ネットワークは"オオカミ型"にすでに形成されており、"人間型"に変換するには容易ではなかった。四つん這いで歩き、手は獣の足の役目をはたし、物をつかむには手でなく口を用いた。水を飲むにはイヌのようになめて飲んだ。保護者の手から直接手から食べ物をもらうようになるのさえ保護されてから一年後であった。やがてカマラは人間としての脳が育ち、このやさしい養母になつき、信頼し、愛するようになり、次第に言葉も覚え、歌をうたい、着物を着るようになった。しかし、カマラは保護されてから10年後の17歳で死ぬまで、2歳児のようなヨチヨチ歩きで、言葉も不十分のままだったという。生まれてきてからの数年間に周辺環境から獲得した基本的な能力がその人の全生涯に影響した実例である。
 母子保健事業として、乳児・1歳6ヶ月・3歳児健診が行われているが、この際に親に対して乳児・幼児の「いざという時の救命処置のやり方」の実技講習を取り入れることを提案している。乳児・幼児に対する救命処置を学ぶことにより、子供の命を守るのは親の責任であることを自覚することが児童虐待防止の第一歩と考えている。子供が病気になっても危険な状態か、危険でないかを判断できる医学の基本知識を身につけられるように子育ての中で必死に学ぶことが親の体験学習である。病気になった子供を安心させる親の自信を持った命の言葉の中に、子供は絶対的信頼をよせ、親の絶対愛を感じるのである。逆に子供の命を見つめる親の不安と心配が子供への父性愛、母性愛を深めるものと思う。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・心停止患者に対する心臓マッサージだけを行う有効性
 心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、一般市民は意識の確認を行い、意識がなければすぐさま救急車を呼び、救急車が到着するまで心臓マッサージだけを行う簡易的心肺蘇生法に変わりました。この背景には、欧米では当たり前である半自動除細動器(AED)の普及があります。心臓突然死の原因は心臓がケイレンした状態になり、血液循環が停止する心室細動であり、すばやい電気ショック(除細動)を行うことが最も有効な救命手段です。心停止状態から除細動までの時間が1分経過するごとに約10%、生存率が低下すると言われています。心臓マッサージだけを行っても、8分以内であれば脳と心臓への血流は充分に維持されており、心室細動の維持には有効で、除細動が可能です。国際ガイドライン2000では、AEDを用いた5分以内の早期除細動が行える体制づくりを求めております。そのためには、AEDが消火器のように法的に設置され、一般市民が緊急時に使用するパブリック・アクセス除細動(PAD)を勧告しています。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・第25回日本健康増進学会の開催を引き受け、新たなスタイルの学会を目指します。
 第23回日本健康増進学会を平成13年11月に淡路夢舞台国際会議場で大々的に開催いたしましたが、今度は逆に、「学会員のための学会」を最優先とし、会員の交流を目的としたクローズドな経費のかからない学会を企画、開催するつもりです。また、今回の学会を通して兵庫県立健康センターが提唱する脊椎ストレッチウォーキング普及啓発も予定しています。
 日時:平成15年10月30日(木)、31日(金)
 場所:兵庫県立健康センター
 学会長:兵庫県立健康センター所長 河村剛史
 学会テーマ:「健康は自らを知る、生きる喜び」

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▼【兵庫県内の話題】

・平成14年度ひょうご防災カレッジ(専門講座)について
 阪神・淡路大地震を教訓に、平成14年4月に開設された「人と防災未来センター」を会場に、県市町の防災関連機関の職員を対象に、自然災害の講義や災害図上演習などを内容とする研修が11月6日から8日の3日間行われました。センター内の展示コーナーには震災直後の破壊された町並みの原寸大のパノラマ模型、実物資料、映像コーナーなどがあり、大震災の生々しい雰囲気の中での研修は教える側も、受ける側も真剣さが感じられました。

・ネットミュージアム兵庫文学館(http://www.bungaku.pref.hyogo.jp/)が開館しました。
 兵庫県にゆかりの深い文学者の記念文学館を紹介するリンクページが掲載されています。姫路文学館(姫路市)、財団法人柿衛文庫(伊丹市)、城崎文芸館(城崎町)、谷崎潤一郎記念館、倚松庵、柳田國男記念館(福崎町)、霞城館(龍野市)、近松研究所、虚子記念文学館、富田砕花旧居(芦屋市)のホームページにアクセスできます。

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▼【兵庫県外の話題】

・日本医師会の禁煙推進キャンペーンの取り組み
 生活習慣病予防の最も効果のある社会キャンペーンは禁煙です。日本医師会では本年も第一回禁煙推進委員会が開催され、医師会員一丸になって禁煙推進活動を継続していくことを宣言しております。
 目に見える禁煙活動の成果は、施設内の全館禁煙です。現在、全館禁煙の医師会館は、日医、沖縄県医、富山県医、徳島県医、福岡県医、新潟県医、京都府医、鹿児島県医、和歌山県医、鳥取県医、愛媛県医、福島県医、島根県医、愛知県医、熊本県医、茨城県医と公表されています。

・日本循環器学会禁煙宣言を第66回総会(2002年4月25日、札幌)で行い、循環器医療の専門家集団として、禁煙推進の3つの基本方針を掲げました。
1 我々は自らの足元から始める。
 循環器学会評議員、専門医、事務局員は全員非喫煙者を目指し、循環器医療関係者は2007年までに現在の1/4にする。現在の医師の喫煙率は男性14%、女性13%である。
2 我々は病院、医学部全体に呼びかける。
 病院の全館禁煙の達成(現在、5%)と学部学生に対する禁煙教育を充実し、2007年には学生喫煙率を0%にする。
3 我々は患者や一般市民、社会に呼びかける。
 疾患と喫煙との関連をしてる人の割合を、現在、心臓病40.5%、脳卒中35.1%と低く、2007年までに現在の2倍にする。国、県、市町村のすべての公的施設の完全禁煙を要請する。

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▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1058件、団体54件の合計1112件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

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 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
  URL: http://www.hyogohsc.or.jp/
  mail: mail@hyogohsc.or.jp

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