健康ニュース 平成11年9月17日送付 発行部数 372
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<本号の目次>

▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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<本文>
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▼【連載特集】
「あなたは愛する人を救えますか」その4−心肺蘇生法は「命を惜しむ心」−
  兵庫県立健康センター所長
  河村剛史

 アメリカのように銃社会で,生活の中に「命の危機意識」がある社会では,突然死に対する心肺蘇生法も市民に受け入れやすい環境がある.しかし,日本のように「命の危機意識」の乏しい国民に,どのように「命」を感性に訴えることが出来るかが非常に難しい課題であった.このころの講習会のやり方として「全員参加の実技指導」を原則として,受講者10人に対して1体の訓練用人形とし人数分の人形集めに努力した.同時に講習の最後には参加者一人一人が全員の前で正しく手順を行えるかのチェックを行い,全員が合格するまでの徹底指導を行った.いざという時に心肺蘇生法を自信をもってやれる人を養成する方が,不完全な指導で自信のない人を多数養成するより役立つと考えたからである.この噂を聞いたある小学校の教頭先生から「先生は合格するまで徹底的に指導するきびしい方とお聞きし,一度本校の教員を教えてほしい」との講習会の依頼が来た.学校を訪問すると,電話の主である45歳前後の教頭先生と20人程度の若い先生方が体育館に集まっていた.アメリカの心肺蘇生法の話をした後,実技練習を2回行い,全員の前で約束通り一人づづ本番演技を合格するまで行った.最初に演技した教頭先生は,見事失敗し,その後も何度も演技に失敗した.合格した若い先生方の特訓の成果により最後に合格し,笑い声と大きな拍手が湧き上がった本当にさわやかなお互いの心が潤った講習会となった.何度も失敗し,先生方の前で恥をかきながらも最後までやり遂げた教頭先生に敬意を持った.
 講習会の後,教頭先生から新任教師の時,一人の生徒を失った過去の話しを聞いた.「この時,私が出来たのは生徒を抱き抱え,大声で名前を泣き叫ぶことしかできなかった」,「いまでもこの腕の中に生徒の身体の形を覚えています」と語られた時,今まで私が全く感づいていなかった真理が脳裏を走った.「そうなんだ.目の前に倒れた生徒の“命を惜しむ心”なしには,心肺蘇生法なんて有り得ない」と悟った.「なんでこんなことに気づかなかったのか」,「愛する人の命を必死になって助けようとする行為こそが心肺蘇生法なのだ」,「大声で助けを呼ぶことだけでも立派な心肺蘇生法である」との心の叫びを聞いた.この時から,どんな人の前に立っても「命とは行為なり」と信念を持って語ることが出来るようになった.これが以後800回の講習会を支えている私の信念である.
 心肺蘇生法は人間愛に基づいた行為であり,キリスト教の精神風土に育ったものである.今年の9月に87歳で亡くなったマザー・テレサは,生涯にわたり人間愛を自らの行為で示した人であった.カルカッタの修道院が“死に行く館”と陰口を言われた有名なエピソードが残っている.当時,貧困に喘いでいたカルカッタでは,毎日のように行き倒れの人が路上に横たわっていた.マザー・テレサは修道女と外に出かけ,今にも死にそうな人を修道院に収容し,身体を拭き,衣服を着替えさせて手厚い看護を行った.この行為を理解できない周辺の人々は,「なぜ死にそうな人ばかりを看るのか」,「もう少し元気な人なら助かるのに」,「だから修道院が死に行く館と言われるのだ」などと,陰口をたたいた.この時,マザー・テレサは,「私は,何もしておりません.ただ,口元に水をさしあげながら,生きてて良かったねとささやいているだけです」と答えられた話しが伝わってきている.誰も看取られず死んで行くこの世で最も不幸な人に,「生きててよかった」と言えるマザー・テレサの言葉の中に,この世に生まれた命に無駄な命は一つもないと言い切った底知れない人間愛を感じた.
 大学卒業後,世界一の心臓外科医を目指して,心臓外科のメッカであった榊原仟教授率いる東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所外科の門を叩いた当時は,心臓手術の成績も悪く,多くの手術患者の死を経験した.集中治療室で心電図モニターを見つめながら心臓が止まる瞬間(心臓死)を死と判断していた私は,いつしか人間の死を単なる生物学的死として客観的(科学的)にとらえる習性が出来上がっていた.心肺蘇生法に接し,マザー・テレサを知り,人間の死は単なる生物学的死ではなく,人それぞれの生まれてからの人生が刻まれた生涯の終着駅であると思うようになった.だからこそ,目の前に倒れた人に声をかける勇気が人間愛であり,人の命を尊ぶ行為であると訴え続けているのである.

続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ資料ボックス
http://www.hyogohsc.or.jp/box/frame.htm からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・「45歳からの運動は、運動負荷試験が安全対策」
 今年も多くの水難事故がありました。この中で,川や池に落ちた子供を助けようと飛び込んだ父親や救助者がおぼれて、子供だけが助かった水難事故が多いと思いませんか。この中には、子供の命を助けようと必死に泳ぐために心臓に急激な負担がかかり、200mmHg以上の血圧の増加があり、心臓突然死の原因となったものが数多く含まれているように思われます。45歳以上の運動負荷試験では、安静時に正常血圧でも、運動不足の人は運動強度を増すと急激に血圧が上昇するのが確かめられています。特に、若い時に運動しており、運動に自信がある人ほど陥りやすい傾向があります。中高年になってからは運動を始める前に、運動負荷試験を行い、健康スポーツ医や専門運動指導員の適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

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▼【センターの話題】

・ 健康づくり強調月間特別事業のご案内
 お蔭様にて、河村剛史所長制作CD-ROM「いざという時の救命処置のやりかた」は昨年の11月の発売以来、1万5000枚の注文が殺到しております。兵庫県立健康センターでは、兵庫健康づくり強調月間の特別事業として、「心肺蘇生法普及500人講習会」の開催を予定しています。
 期日 平成11年9月26日(日曜日)
 時間 13時00分〜15時00分
 場所 健康センター3階体育ホール
 講師 兵庫県立健康センター所長 河村剛史
 料金 無料
 申込 E-mail: hisada@hyogohsc.or.jp まで

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▼【兵庫県内の話題】

・ 本号は記載ありません。

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▼【兵庫県外の話題】

・「結核緊急事態宣言」について
 7月21日付けで政府が「結核緊急事態」を宣言しました。結核が「国民病」であった時代とは異なり、結核に自然感染する機会が少なくなっており、結核未感染者(ツベクリン反応陰性)は50歳で65%、40歳で85%、30歳で85%、20歳で97%となっています。特に免疫力の低下した高齢者は、常に注意が必要です。
 日本は先進国に中では、未だ結核多発国であり、一昨年の結核新規登録者は4万2,715例と38年ぶりに増加に転じ、罹患率も43年ぶりに再増加しています。

詳しくは厚生省のホームページをご覧ください。
http://www.mhw.go.jp/houdou/1107/h0726-2_11.html

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 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人322件、団体約50件の合計372件の方々にご送付させていただきました。
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