健康ニュース 2003年3月6日送付 発行部数 1148件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・「もったいないと言わないことがもったいない」
 これは、昨年11月21日にスポーツ中の心臓突然死で亡くなった高円宮殿下が言われた言葉です。「もったいない」という言葉に、今の日本人が忘れかけている「物を大切にする心」が込められています。幼き頃、お茶碗にご飯粒が残っているとお百姓さんに怒れれるといわれた記憶があります。ご飯粒一つにも感謝する心を教えた親の時代は、貧しくても心豊かな時代であったと思います。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」―AEDを使った新しい心肺蘇生法の誕生
兵庫県立健康センター 所長
河村 剛史

 米国心臓協会(AHA)が2000年8月に発表した心肺蘇生法国際ガイドライン2000は、日本においても心臓突然死の救命救急体制に大きな変革をもたらしている。
 ガイドライン2000では、心臓突然死の原因の大部分が心室細動であり、その唯一の救命手段はすばやい電気ショック(早期除細動)であると明言したことにある。平成14年11月21日の高円宮殿下のカナダ大使館でのスカッシュ中の心臓突然死に対して、搬送先の慶応義塾大学医学部救急部の医師が、その死亡原因が心室細動であると記者発表で述べたのはガイドライン2000を意識したものと思う。この事故に続いて起こった福知山、名古屋マラソン中の心臓突然死についても、医師がその場にいたか、心肺蘇生法が適切になされたかといった従来の救急体制が論じられることはなく、こうした状況ではAED(半自動除細動器)があれば救命できたとのAEDを用いた新しい救命体制の必要性が大きく論じられるようになった。
 かねてから「中高年のスポーツ時の心臓突然死」の警告を出していた私に、全国紙、地方紙、医学雑誌、テレビ局など15社からの取材攻勢を経験することになった。今回の事故にて、男性45歳、女性55歳以上の動脈硬化年齢に達した中高年は、無理のない健康スポーツが最適で、激しい競技スポーツを行うなら事前に運動負荷試験を行う必要性があること。自覚症状のない心臓突然死の可能性として、心室細動、急性冠症候群の存在をアピールできたこと。同時に兵庫県医師会が2001年秋から始めた医師会会員へのAEDの普及活動も社会の注目する所となった。今後、スポーツイベントでは、AEDの装備をすることが主催者側のなすべき責任とみなされる流れとなった。
 米国のカジノにおける新しいAED救命体制の成果は、AEDの有効性を示す確定的な根拠となった。警備員にAED使用訓練を行い、1997年3月1日からAED救命体制がスタートした。32ヶ月間に32ヶ所のカジノ内で、148例の心臓突然死例が発生した。この内,105例(71%)が現場心電図上で心室細動で、56例(53%)が生存退院した。カジノは警備上にテレビモニターが各所に設置されており、救急時の対応時間がモニターにて正確に把握できているのが特徴である。モニター上に映し出された実写録画は、警備員がAEDのパッチ電極を貼り付ける前に男性の胸毛を剃っている意外な光景が見られ、彼らは心肺蘇生を行わなくても5分以内に除細動を行えば救命できると確信していることが伺える。心停止からAEDパッチ装着までの時間が3.5分、除細動までの時間が4.4分で、パラメディック(日本では救急救命士)の到着時間は9.8分であった。心臓突然死発生から3分以内に除細動が行われた例では実に74%の生存退院が得られたに対して、3分以上の例でも49%の成績であった。
 ガイドライン2000における大きな変更点は、一般市民には迅速な通報と心臓マッサージのみを行うだけでよいとした点である。幸いなことに、従来のCPR法に対して医学研究面からの見直しがなされ、AEDによる早期除細動を前提とする場合には、むしろ心臓マッサージのみを行う方が除細動可能な心室細動(粗い心室細動)を維持するのに有利である根拠が示された。一般市民が人工呼吸を行わずに心臓マッサージだけを行っても、8分以内に除細動を行えば循環の回復が可能である。この間、脳と心臓への血流は最小限に維持されており、除細動可能な粗い心室細動が維持できるからである。
 救急救命士が医師の指示なしに除細動を行うことができる2003年4月からは、日本においても新しい心肺蘇生法の効果を試す時期になる。日本人に対して目の前で人が倒れた時、すぐさま意識の確認を行い、意識がなければ大声で助けを呼ぶことができる勇気が再度、問われることになる。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・高感度CRPは生活習慣病の発症予測に有用な指標
 CRP(C-反応性蛋白)は、古くから感染症、炎症の診断に使われていますが、最近、心筋梗塞、脳梗塞などの原因となる動脈硬化症の概念が慢性炎症性疾患として捉えられるようになり、従来、炎症がないと判定していた正常範囲のCRP値を高感度で検出する高度CRPが脚光を浴びています。
CPRが動脈血管の炎症部位のみならず内臓脂肪の脂肪細胞からも生成されるサイトカイン(生理活性物質)の一つであるインターロイキン-6、TNF-α(腫瘍壊死因子)の刺激により肝臓で合成される蛋白質です。同時に、肝臓では血液凝固に関係するフィブリノーゲンや血の塊を溶かすのを妨げるPAI-1(プラズミノゲン活性化阻害因子)も産生されることから、血管内膜の破綻と続いて血管内血栓形成により、心筋梗塞、脳梗塞などの梗塞性疾患が発症するのです。CRPの値は、減量や適度のアルコールにより減少することが知られています。
 高感度CRPが0.55mg/L以下の人と比較して、2.11mg/L以上の人の心筋梗塞の発症率が3倍になるといわれており、日本人の上限値は2.0mg/Lと言われています。梗塞性疾患の発症を予測する指標として、特に“死の四重奏”患者、冠動脈危険因子のある人に重要な検査になっています。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・動画と音声による「AEDを使った新しい心肺蘇生法のやり方」をホームページに掲載しました。
 ホームページのライフサポートの項(http://www.hyogohsc.or.jp/life/frame.htm)に「AED(半自動除細動器)の使用法」と「健康センターでの救命救急訓練の模様」を音声と動画を使って説明しました。あわせて、AED使用の流れ図を掲載しています。
 AEDが身近にある場合、もしくは施設内にある場合には、AEDの到着まで心臓マッサージだけを行っておればよく、心室細動に対して5分以内の除細動ができる救急体制づくりが今後の課題となります。日本各地で行われているスポーツイベントにおいて主催者側がなすべき体制としてAEDの装備が求められます。

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▼【兵庫県内の話題】

・「脊椎ストレッチウォーキングin神戸総合運動公園」の開催のお知らせ
 主催:健康スポーツ関連施設連絡協議会、兵庫県医師会、神戸市医師会、神戸市緑化協会
 日時:平成15年3月22日(土)午後14:00〜16:30分
 場所:グリーンアリーナ神戸体育館
 コース:神戸総合運動公園ウォーキングコース
 定員:300名、参加費:500円
 講話:長寿の道は、『自立自尊』
    兵庫県立健康センター所長 河村剛史
 詳細は、健康スポーツ関連施設連絡協議会のホームページ(http://www.health-jp.net/scd/pdf/walking_sokouen.pdf)をご覧ください。

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▼【兵庫県外の話題】

・衆議院予算委員会に心臓突然死対策としてのAEDの国内導入が取り上げられました。
 2月26日の衆議院予算委員会分科会(厚生労働)において赤松正雄衆議院議員がAEDについて30分間の質疑を行いました。高円宮殿下の死亡事故以来、施設内にAEDを装備する必要性が高まっている。今後、スポーツ大会、イベント会場での設置義務が急務であり、厚生労働省に対して取り組み姿勢強化を強く求めました。

・3月28日から福岡で開催されます第67回日本循環器学会総会では、AEDの会場内設置が明記されました。
 昨年12月10日にAEDの非医療従事者の使用許可を求める提言書を厚生労働省に提出しましたが、学会会場の6箇所にAEDを設置し、医師向けAED講習会、一般市民向け公開講座を開催します。河村剛史兵庫県立健康センター所長も市民公開講座で講演いたします。

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▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1094件、団体54件の合計1148件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
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