健康ニュース 2003年6月4日送付 発行部数 1196件
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<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

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▼【TOPニュース】

・「なせばなる」三浦雄一郎氏の70歳エベレスト登頂
 1970年エベレストでの大滑降を手始めに、1985年(53歳)には世界7大陸の最高峰からの大滑降を達成したことで有名な冒険スキー家の三浦雄一郎氏は、その後、冒険スキーの世界から引退しました。本人の言葉によれば「ゴルフ、スキー、それにビール飲み放題みたいな生活になっていた」とのことで、いつの間にか、体重は10kgも増えて80kgを越え、かつての冒険家の面影はなくなっていました。しかし、90歳になってもスキーに打ち込む父親に刺激を受け、65歳の時に7「こんな人生ではいけない」と一念発起し、70歳で世界最高峰のえべれすとの頂上に立つことを夢に向けての挑戦を始めました。
 2001年1月の三浦氏の体重は80kg、体脂肪率は30.4%%の肥満でしたが、3月には28.6%、10月には25.2%にまで落しました。もともと基礎体力があったこともあるが、持久力の指標の一つの最大酸素摂取量は、30歳代後半、骨密度に至っては20歳代とのことです。どんなトレーニングをされたかと思いましたが、いつも登山靴をはき、両足にそれぞれ6キロの重しを巻いて歩いたり、時折、走ったりする。あとはスキーをする主に下半身筋力の強化をされたようです。
 長寿の道は、『自立自尊』を社会啓発の旗頭に上げているものにとって、特別な人とはいえ、70歳になってもエベレスト登頂が出来たことは、下肢筋力はどんな歳からでも鍛えようとすれば鍛えられる証明になりました。80歳にして2本足で立ち、好きな時どこでも行ける「自立自尊」の長寿者こそが、日本を真に元気付ける社会の活力になると思います。

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▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」―心室細動は市民が救える唯一の心臓病
兵庫県立健康センター 所長
 河村 剛史

 2003年4月から心臓突然死に対して救急救命士が救急現場で医師の指示なし早期除細動を行うことができる新しい救命救急体制がスタートした。心臓突然死の原因は、ほとんどが心室細動で、昨年の11月21日の高円宮殿下のスカッシュ中の心臓突然死の原因として大きく報道されてから一般社会にも広く知られるようになった。心室細動という死に至る不整脈が社会的認知されることにより初めてその救命手段として半自動除細動器(AED)を用いた早期除細動の重要性が注目されるようになった。
 米国留学から帰国した1987年9月から姫路の地で心臓突然死に対する一般市民の心肺蘇生法の普及啓発を始めたが、当時、心臓突然死という言葉は社会的に認知されておらず、急性心不全が一般的であった。一般市民にとって救急車を呼ぶことが救急処置で、心臓突然死は救急車が到着する前に死亡する助からない病気であった。ましてや、市民自らが心肺蘇生法を行うことはありえず、心肺蘇生法は病院内で医師が行うものと考えられていた。
 当時の日本の救命システムについては、急病患者の重症度に応じて受け入れ病院として1次、2次、3次救急病院の指定がなされ、最重症患者に対して人口100万人に対して3次救命救急センターが設置された。その一環として3次救急救命センターが併設された兵庫県立姫路循環器病センターは誕生して10年が経過した時期であった。急病人が発生した場合に、家族が病院に連れて行かなくても救急車を呼ぶことができる一応の体制が確立されていたが、救急告知病院でも当直医がいない、専門医師がいない、ベッドが満床であるなどといった理由で診察を受け付けない、いわゆる"たらいまわし"が大きな社会問題となったことから、その解消に地域医師会が中心となり診療科目ごとにその日の受け入れ病院をあらかじめ決めておく"輪番制"がスタートした頃でもあった。
 1990年に全国の3次救命救急センターを対象に病院外心停止患者の実態調査がなされ、救命率は1%にも満たず、欧米の25%から30%の救命率とは大きくかけ離れていた。このことから、日本でもようやく心臓突然死患者に対して米国のパラメディック制度を模した救急救命士制度が1992年にスタートしたのである。救急現場で救急救命士は心停止患者に対して器具による気道確保、輸液路確保、半自動除細動器(AED)を用いた医師の指示による除細動が可能となった。しかし、救急救命士制度がスタートして10年が経過したが、当初予想されていたほどには救命率は向上せず、2001年の報告でも3%前後であった。救命率が向上しなかった原因の一つは、心停止から救急救命士が患者に接する時間に約8分かかり、医師の指示を得て除細動を行うまでに15分程度の時間を要することにあった。
 米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心停止後、除細動が1分遅れるごとに救命率が10%すると明記されており、心肺蘇生法を行わなくても心停止後5分以内に早期除細動を行えば約半分の人を救命できるとした。この心停止後5分は、脳循環停止による脳障害を起こさない脳虚血の最大許容時間であり、同時に冠循環停止による除細動可能な心室細動が維持される限度である。除細動施行が心停止後5分を超える場合には、最小限の脳・冠循環を維持する心肺蘇生法が必要となる。2003年4月からの救急救命士の医師の指示なし除細動の意義は、救急救命士が患者に接し除細動を行える最短時間の8分では、20%程度しか救命率が得られないが、もし、一般市民が救命士到着まで心肺蘇生法を行えば救命率は50%前後まで向上させることができると述べている。
 心臓突然死の究極の救命法は、心停止後5分以内にAEDを用いて除細動を行うことであり、救急車が到着前に一般市民が行う体制づくりである。「心室細動は市民が救える唯一の心臓病」をキャッチコピーに社会啓発活動を行いたいと思っている。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

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▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・食後高血糖は心血管イベントの危険因子
 空腹時血糖値が正常域(126mg/dl以下)であっても,75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値が200mg/dlを超える糖尿病発症前の境界領域IGT(impairedglucose tolerance)が新たな治療対象として注目を集めています。IGTの早期診断を空腹時血糖値で予測するには,126mg/dlより低い104mg/dlを目安にすべきであるとの報告もあります。
 糖尿病発症前の食後高血糖が血管内皮機能障害,動脈硬化をすでに進行させていることがわかってきたからです。日本人は、血糖値を一定に保つ調整機能を果たしているインスリンの分泌能力が低く、欧米人に比べて2分の1から4分の3程度と言われています。食後高血糖は、食後の血糖値の上昇に対してインスリン分泌の遅延により起こります。最終的には2型糖尿病に移行いたします。
 食後高血糖を抑えることが、血管内皮細胞を保護し,血管内皮機能不全を予防し、心血管イベントの抑止につながります。血管内皮細胞は再生可能な細胞であり,糖尿病発症前または早期の病態の特徴である食後高血糖を早期治療することが糖尿病治療の新しい流れになって来ています。

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▼【兵庫県立健康センターの話題】

・「救助機材を使用したプール水難救助法」の実技講習会
 欧米では、すべての外傷患者をバッグボードに固定して搬送する全脊椎固定搬送が行われています。特に、プール内での水難事故では、外傷時の頚椎損傷の可能性があるものとして取り扱う必要があります。したがって、プール水難訓練では、単に心肺蘇生法の習得のみならず、バックボード、頚椎カラーを使用した頚椎固定後のプール引き上げ訓練が求められます。プール内での救助は、救急隊員が到着するまでに、スポーツトレーナ、施設職員が行わなければならない管理責任があります。
 そこで、夏期特別セミナーとしてプール水難事故の講義と今後、求められる「救助機材を使用したプール水難救助法」の実技講習会を開催いたします。定員は各10人です。申し込みおよび問い合わせは兵庫県立健康センター事務室まで。

【日時】 8月24日(日)、26日(火)、27日(水)PM13:00〜16:00
【場所】 兵庫県立健康センター
【受講料】 5,000円
【講習内容】
 講義:プール事故時の頚椎損傷
 実技指導:救助の基本動作、救助機材(バックボード、頸椎固定カラー)を使用した救助法

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▼【兵庫県内の話題】

・健康ひょうご21県民運動推進会議総会の開催
 6月17日(火)午後1時30分から4時30分、神戸市中央区のシーガルホールにおいて、健康ひょうご21県民運動推進会議総会が開催されます。1時30分から総会の後、2時30分からは「食でつくる健康ひょうご21」をテーマに、講師に食生活ジャーナリストの岸朝子氏ほかを招き、家森幸男同推進会議会長がコーディネーター役を務めるフォーラムが開催されます。<参加費無料>問合せは、078−579−0166(兵庫県健康財団)まで。
 なお、本総会において発表される健康ひょうご21活動賞に、当センターも加盟している健康スポーツ関連施設連絡協議会と兵庫県医師会が共同で行う「脊椎ストレッチウォーキング」が、審査員全員の1位評価で選ばれました。

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▼【兵庫県外の話題】

・初の国産第1号のES細胞の作成に成功しました。
 京都大再生医科学研究所は5月27日に、国産初のヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の作成に成功したと発表しました。早ければ10月にも全国の研究機関に無償で分配できる見通しを述べました。ヒトES細胞は、多様な細胞に成長する能力があり「万能細胞」とも呼ばれ、受精後5-7日の「胚盤胞」の段階で細胞の一部を培養するなどしてつくり、分化しない状態のまま増え続けるのが特徴です。
 猿を使った動物実験では、ES細胞を使ったパーキンソン病や糖尿病の治療に成功しており、今回、人間の治療に向けて一歩前進したことになります。しかし、人間の受精卵を使用することによる倫理面での問題、拒絶反応、培養過程での未知なるウイルス感染、再生誘導物質など解決すべき問題も残されております。
 神戸市は再生医療を中心とした先端医療産業都市を目指しておりますが、今後、臨床応用がなされ再生医療産業として成り立つには2050年ごろと言われており、まだまだ遠い道のりです。

・たん吸引など一部の医療行為をホームヘルパーに解禁
 厚生労働省の「看護師等によるALS(筋委縮性側索硬化症)患者の在宅療養支援に関する分科会」は、5月13日に一定の条件の下でホームヘルパーなど家族以外の者にも吸引を認める報告書を提出しましたが、それを受けて、坂口厚労相は、患者のたんを吸い取る「吸引」など、医師や看護師に限定されてきた一部の医療行為を段階的にヘルパーらに解禁していく考えを示しました。
 報告書では、家族以外の者が吸引する場合の条件として(1)主治医や看護師による吸引方法の指導(2)文書による患者の同意(3)緊急時の連絡・支援体制の確保−などの項目を挙げています。

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▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1142件、団体54件の合計1196件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

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 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
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