健康ニュース 2003年8月1日送付 発行部数 1240件
**********************************************************************

<本号の目次>
▼ TOPニュース
▼ 連載特集
▼ 健康づくりワンポイントアドバイス
▼ 兵庫県立健康センターの話題
▼ 兵庫県内の話題
▼ 兵庫県外の話題
▼ お願い

**********************************************************************

▼【TOPニュース】

・“世間”という地域社会が消えた都会
 近所付き合いのない都会生活は、“世間の目”を気にすることなく、自由な生活を楽しむことができます。昔、親は子供に隠れて悪いことをしても「“お天道様”が見ている」と「善悪の教育」をしたものです。悪いことをしていると罪の意識を感じながら悪いことをした記憶もあります。
 長崎市の中学1年生が起こした4歳男児誘拐殺人事件は、少年が過去にどんな非行を重ねても、親も“世間の目”も“お天道様”も少年がエスカレートするのを止めることができなかったおぞましい結末です。物事の善悪を子供に教えるのは、まず、親であり、学校であり、“世間の目”であったはずです。
 「お互いの命を守る社会づくり」は、“お天道様”が通じなくなった社会における新たな地域の絆づくりの提案と考えています。

---------------------------------------------------------------------

▼【連載特集】

「あなたは愛する人を救えますか」―AEDを使用した心停止後5分以内の早期除細動
兵庫県立健康センター 所長
河村剛史

 米国心臓協会(AHA)心肺蘇生法国際ガイドライン2000では、心停止後、除細動が1分遅れるごとに救命率が7%〜10%すると明記されており、心停止後5分以内にAEDを使用した一般市民による早期除細動を行える体制づくりを目指し、目標救命率を50%とした。この救急体制づくりは、心臓突然死の原因の大部分は、心室細動であるとの大前提に立っている。
 1998年から2年間に大阪府内に発生した病院外心停止症例10,139例のデータを見ると、男性では50歳代、60歳代、70歳代の病院外心停止が多く見られ、女性では80歳代まで年齢とともに増加している。早期除細動の対象となる救急隊到着時の現場心電図が心室細動の発生数を見ると、50歳代、60歳代、70歳代の男性に極めて多く、特に50歳代の男性は、同年代の女性と比較して6倍の発生頻度の差が見られた。こうしたデータから、AEDによる早期除細動は、50歳から60歳代の働き盛りの男性をターゲットにしたAEDを用いた心臓突然死対策といえる。
 最近、AED導入の先進国である米国のミネソタ州オームステッド郡において、1990年11月〜2001年1月に院外で心停止を起こし、心室細動に対する早期除細動を受けた全患者の転帰が報告された。世界的に有名な病院メイヨー・クリニックがあるこの地域は、もともと救急体制が整った所で、AED導入前の生存退院率は約27%で高い水準にあったが、AEDの導入より更に42%まで高めることができた。AEDを受けた200人中、145人(72%)はその場で心拍が再開し、病院に運ばれた。生存退院した84人(42%)のうち5人には神経学的な障害が残ったが、79人は神経学的な合併症がなく退院できた。長期生存者に対してその後の健康関連のQOL(生活の質)を調べたところ、同じ年齢・性別の一般米国人よりも劣っていたのは活力に関する項目だけで、全般的健康度や身体機能、精神状態などでは違いが認められなかった。
 このように心臓突然死からの生存者の大多数は仕事に復帰し、それらの人々のQOLは一般集団のQOLとほぼ同等の生活を過ごすことができる。さらに、再発の恐れがある心臓突然死からの蘇生患者に対して、超小型の植え込み型除細動器(ICD)の体内植え込み術が日本でも1996年から医療保険で認められており、死の恐怖からも開放された社会生活を過ごすことができる。
 ICDは1980年に世界で最初の体内植え込み術が行われた。現在では世界で年間約10万例(米国8万例)の植込み術が行われており、心臓突然死患者の究極の治療手段になっている。年々、医療技術の開発により小型、軽量化が進み、現在では通常のペースメーカーと同様の手技で簡単に植え込むことができる。体内に植え込まれたICDは、死に至る心室細動、心室頻拍を自動認識し、直ちに自動的に除細動を行い、100%に近い救命率を誇っている。AEDは、Automated External Defibrillator(自動体外式除細動器)の名の通り、心室細動を自動認識し、音声による指示があれば通電ボタンを押すだけの簡単な操作の装置である。すでに治療実績のあるICDの不整脈自動認識機能をAEDに取り入れたものである。心肺蘇生法国際ガイドライン2000は、心室細動の自動認識機能の精度に絶対的信頼を置き、一般市民も使用できるAED使用を心臓突然死に対する救命手段の基本にすえたのである。
 日本において、1999年に全国の救急隊員が搬送した心停止患者数は83,353人で、その内救命されたのはわずか3%に過ぎない。毎年およそ8万人の人が突然死で死亡していることになる。ある統計では、救急隊員により心臓突然死と判断されたのは44%との報告があり、日本における心臓突然死数は、およそ3万5000人と言うことになる。毎日、100人近くの人が心臓突然死にて死亡していることになる。心臓突然死の原因の大部分は、心室細動によるもので、傍にいる人がすぐさまAEDにて除細動を行えば、救命できるのである。まさに心室細動は市民が救える唯一の心臓病である。

 続く

バックナンバーにつきましてはセンターホームページ「電子ジャーナル配信」
 http://www.hyogohsc.or.jp/entry/frame.htm
からご覧いただけます。

---------------------------------------------------------------------

▼【健康づくりワンポイントアドバイス】

・夏場の熱中症予防は、常に汗をかくこと。
 熱中症は、症状により熱痙攣、熱疲労、熱射病と重症化し、死にいたる疾患群です。人間は、外気の暑さに対して発汗し、その蒸発熱にて体温を下げる体温調節機能が備わっています。また、激しい運動を行えば体内でのエネルギー燃焼による熱産生が高まり、熱放散のために発汗します。
 熱痙攣は、発汗によって失われる水分とミネラルに対して、水分だけの補給を行っていると、ミネラル、特にマグネシウム不足により筋肉痙攣、“こむらがえり”が起こります。スポーツをする前に、深層水(マグネシウム補給)を飲むことを推奨するのはこのためです。
 熱疲労は、発汗に対して水分、ミネラルの補給を行わなければ、脱水となり循環血液量の減少のみならず血液粘度が高まり、血液循環の減少が起こります。これを細胞外脱水といいます。血圧低下によるめまい、脳循環低下による頭痛、場合によっては手足が冷たくなり、体幹部が熱くなり(うつ熱)、ショック状態になります。この対処法は、涼しいとことに運び、体幹部の冷却と塩分をわずかに加えた深層水をゆっくりと飲ませます。
 熱射病は、熱疲労が進行した状態で、うつ熱に加え、細胞内脱水に陥り、全身臓器内細胞が熱と脱水により壊れ始め、血液も凝固し始めます。脳障害が起こり始めると、不穏状態となり、最終的には多臓器不全にて死にいたります。この状態にならない前の熱疲労の時点で対処すべきものですが、意識が朦朧状態であれば、即、救急車を要請し、専門病院に搬送することが救命につながります。

--------------------------------------------------------------------

▼【兵庫県立健康センターの話題】

・心肺蘇生法普及500人講習会の開催のお知らせ
 9月からの兵庫健康づくり強調月間の特別事業として、「心肺蘇生法普及500人講習会」を開催いたします。

 期日 平成15年9月6日(土曜日)
 時間 14時00分〜16時00分
 場所 健康センター3階体育ホール
 講師 兵庫県立健康センター所長 河村剛史
 料金 無料
 申込 兵庫県立健康センター事務局まで
    FAX:078-441-2149
    E-mail:mail@hyogohsc.or.jp まで

---------------------------------------------------------------------

▼【兵庫県内の話題】

・県民運動「脊椎ストレッチウォーキングin丹波」が9月1日からスタートします。
 兵庫県丹波県民局県民生活部が行う事業で、9月1日の県民健康デーから10月20日までの50日間に家族や友人などのペアで100万歩をめざし“ペア・ミリオンウォーク”参加者を1000組募集しています。
 7月28日には河村剛史兵庫県立健康センター所長が、脊椎ストレッチウォーキング法の指導者講習を行いました。脊椎ストレッチウォーキングは、長寿の道は、『自立自尊』を目指した健康づくりの行動理念と考えています。8月に開催される脊椎ストレッチウォーキング教室の指導では、 健康スポーツ関連施設連絡協議会所属の県医師会認定トレーナーが担当します。兵庫県立健康センターが提唱した脊椎ストレッチウォーキングは、県医師会の普及活動のひとつになり、さらに県民運動として県民局単位で行われるようになりました。ますます広がりを見せています。

---------------------------------------------------------------------

▼【兵庫県外の話題】

・AED推進特区申請の厚生労働省の現時点での回答(7月28日)
 第3次構造改革特区提案に、除細動推進特区の個人申請を行いました。日本循環器学会自動体外式除細動(AED)検討委員会委員長である慶応義塾大学医学部教授の三田村秀雄氏と兵庫県立健康センター所長の河村剛史氏が共同提案を行いました。
 平成14年12月に日本循環器学会からは坂口厚生労働大臣に非医療従事者のAED使用の規制緩和を緊急提言をいたしました。また、平成15年2月27日には、衆議院予算委員会第5分科会にて兵庫県選出の赤松正雄議員からAEDについての質問が出され、阪口厚生労働大臣から「この夏までに結論を出す」との回答を得ています。
 こうした流れの中で、平成2年度から心肺蘇生法普及の県民運動を展開している兵庫県の4都市(姫路、相生、宝塚、川西)をモデル地域に指定し、公共施設、集客施設、学校などにAEDを設置し、非医療従事者にAED使用を認めてもらうAED推進特区を申請しました。
 平成15年7月28日に厚生労働省から、「無資格者が緊急やむを得ない措置として電気的除細動を行うことは、必ずしも医師法違反とはならないと考えるが、どのような場合に医師法違反とならないかについては、検討しているところ」との見解が述べられ、現時点では特区として認められないとの回答でした。回答に対する質問状を再度、提出いたしました。
 AEDの普及は、「お互いの命を守る社会づくり」の基本戦略です。更なる国の働きかけを行い、同時に国民のAEDに対する関心を高めることが実現への道と考えます。

 詳細については、構造改革特別区域推進本部のホームページをご覧ください。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/index.html

---------------------------------------------------------------------

▼【お願い】

 このメールマガジンは、健康づくりをテーマに兵庫県立健康センターが編集し、不定期(月1回程度)に発行します。本号は個人1186件、団体54件の合計1240件の方々に送付させていただきました。誠にお手数ですが貴メールアドレスへのマガジンの送付停止につきましては、下記メールアドレスに連絡いただきますようお願い申し上げます。
 我々は多くの方々の健康づくりに少しでも寄与できればと考えております。インターネットにつきまして、未熟な我々がメールマガジンを発行できるのも、皆様方のご協力の賜物と感謝いたしております。今後ともご協力、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

**********************************************************************

 兵庫県立健康センター
  〒658-0081神戸市東灘区田中町5丁目3番20号
  TEL: (078)441-2234
  FAX: (078)441-2149
  URL: http://www.hyogohsc.or.jp/
  mail: mail@hyogohsc.or.jp

**********************************************************************


Copyright (C) 2004 Hyogo Vitual Health Science Center