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解説「AEDによる心臓突然死の救命」:
AED(G2000方式)とAED(G2005方式)の比較

河村循環器病クリニック 院長
河村剛史


  ガイドライン2005によりAEDは広く認知され、その簡便性から公共施設、学校を中心に設置されるようになった。
  だが、設置することで心臓突然死が救命できる安易な風潮もあり、その正しい使用法の普及啓発が疎かになっている。 特に、心肺蘇生法の技術を習得する、個人個人の自覚も薄れている。
  AEDの除細動エネルギーは、1200ボルト、20アンペアの高圧・高電流が一瞬に流れる医療機器である。AEDの一般人使用が解禁になるまでは、医師の中でも循環器医、心臓外科医、麻酔医が安全確認を行い、除細動を行っていた。
  心臓突然死を救命できる唯一の手段であるが、救助者はAEDの使用時の危険意識を十分に理解した人がリーダーとなって、「離れて!離れて!」と叫び、安全確認を行うことを忘れてはならない。


  解説:AED(G2000方式)とAED(G2005方式)の比較

1.はじめに
 ILCOR(International Liaison Committee on Resuscitation、国際蘇生連絡協議会)は、
AHA(American Heart Association 米国心臓協会)がスポンサーとなり、2000年以後に発表された科学的論文を検証し、 2,005年11月28日に心肺蘇生法国際コンセンサス・ガイドライン(CoSTR)を発表した。
 日本においても、国際コンセンサス・ガイドラインをもとに日本版ガイドライン2005(G2005)が発表された。
 G2005の中での変更点は、
1)意識、呼吸がなければ、大声で叫び、救急車(119番通報)とAEDを頼み、すぐさま心臓マッサージを行う。
2)人工呼吸は、フェイスマスクあるいはバックバルブマスクが手元にある時に心臓マッサージ:人工呼吸=30:2の割りで人工呼吸を行う。
3)AEDによる除細動は1回で、除細動後、すぐさま2分間心肺蘇生法を行い、リズム判定を行う。もし、AEDが「除細動の必要なし」と判断しても、そのまま救急隊が到着するか、本人が嫌がるまで心肺蘇生法を持続する。
  AED(自動体外式除細動器)に関しては、従来のG2000プロトコールによる旧機種とG2005プロトコールによる新機種とが混在することになった。G2005のマニュアルが変更になっても、プログラム変更ができない旧タイプのAEDを所持している人はG2000の音声指示に従わざるを得なくなる。旧タイプAEDも医療機器として認可を受けた機種であり、法的にも問題はない。
  日本版G2005では、混乱を避けるために両機種を採用し、AEDによる除細動方式は各機種の音声指示に従うこととした。

2.AEDによる除細動回数の変更:3回連続通電方式(G2000)から1回通電方式(G2005)の比較

 
G2000では、AEDによる通電は3回連続で行い、除細動効果がない場合には1分間の心肺蘇生法を行った後に、再度、AEDによる除細動を試みることになっていた。
  G2005では、AEDによる通電は1回とし、通電後にすぐさま心肺蘇生法を2分間行った後に、心電図リズム解析を行う方式に変更された。
  AEDの除細動の通電波形には、旧タイプの単相性波形(monophasic)と新機種の2相性波形(biphasic)がある。新ガイドラインでは、単相性AEDの場合では360ジュール、2相性AEDの場合では150−200ジュール(biphasic truncated exponential waveform)、あるいは別の機種では120ジュール(rectilinear biphasic waveform)の1回除細動を推奨している。
  3回連続通電方式では、この間、AEDの音声指示により患者から離れ、心臓マッサージを行わない時間(hand-off time)が除細動効果を低下させていた。
  G2005では、AEDによる通電は1回とし、通電後にすぐさま心肺蘇生法を2分間行った後に、心電図リズム解析を行う方式に変更された。
  AEDの除細動の通電波形には、旧タイプの単相性波形(monophasic)と新機種の2相性波形(biphasic)がある。
  G2005では、単相性AEDの場合では360ジュール、2相性AEDの場合では150−200ジュール(biphasic truncated exponential waveform)、あるいは別の機種では120ジュール(rectilinear biphasic waveform)の1回除細動を推奨している。
  この理由として、心肺蘇生法を行わない自然経過では、心筋内の酸素が枯渇し、約4分で除細動可能な“粗い心室細動”から除細動できない“細かい心室細動”に移行する。G2000方式のAEDでは、1回目除細動からリズムチェックに約30秒時間を消費する。
  1回目除細動が失敗した場合には、心肺蘇生法による冠潅流により心筋虚血の改善がなければ心室細動の波高はさらに細かになり、エネルギー出力を増加しても2回目の除細動の成功率は低下する。
  心停止後すぐさま心肺蘇生法を行って、脳と心臓にわずかでも血液を循環させておけば、心室細動が持続するだけでなく、脳細胞の障害を遅らすことができる。
  AEDが除細動を認識した場合には、心停止後の経過時間にかかわらず、除細動が可能であるばかりでなく、脳循環は維持されている証でもあり、脳蘇生が期待できる。
  最近の研究では、2相性AEDによる1回除細動の成功率が90%を超えており、心停止後にすぐさま心肺蘇生法を行い、迅速な除細動を行うG2005方式がもっとも現実的である。

3.AEDによる除細動後の心肺蘇生法の必要性について:循環回復時間の循環維持


 
 
除細動後の心電図は、除細動直後は心静止の状態が数秒続いた後、房室結節からの接合部調律が起こり、次いで洞調律に復帰する。しかし、心電図が正常洞調律に回復しても、循環停止による心筋虚血あるいは心室細動の原因疾患(心筋梗塞)による心機能低下により低血圧状態が1,2分持続する。この間、心臓マッサージ:人工呼吸=30:2の心肺蘇生を行い、循環状態を維持することが心室細動の再発予防になる。
  この際の人工呼吸に関しては、AEDの付属品として持参したフェイスマスクあるいはバッグバルブマスクを使用すればよい。
  1回目除細動後2分間の心肺蘇生法を行うことにより、除細動が成功の場合には循環動態の維持につながり、除細動が不成功の場合には冠潅流の維持することにより心室細動の波高を増加させ2回目除細動の成功率を高めることになる。
  心停止状態から血圧が上昇し、循環が回復するまでの時間を循環回復時間と言う。心室細動の原因疾患によって異なるが、通常は除細動後、洞調律に復帰しても1−2分は低血圧状態が持続して、この間、心臓マッサージを行わなければ、再度、心室細動になる可能性がある。

4.AED(G2000方式)による救命:1例目


 
 
AED(G2000方式)の電源が入り、電極パッドを貼った直後の心電図波形は、心臓マッサージによるリズミカルな基線のぶれである。解析ボタンを押し、2回の解析にて心室細動と判定し、充電が開始した。1回目は200ジュールのエネルギーを放電したが、心室細動は持続していた。再度、2回の心電図解析で心室細動と判定し、充電が開始された。2回目は300ジュールにエネルギーが増強された。1回目除細動から2回目除細動までの時間は、約30秒要した。
  2回目の除細動後、7,8秒は電位波形の見られない基線のみの心静止状態が続いた。その後、房室結節からの接合部調律が見られ、2回目除細動後、20秒後から洞調律に復帰した。
  循環動態の観点からは、心電図上で除細動により心室細動から洞調律に復帰しても血圧は必ずしも回復していない場合がある。心停止状態から血圧が上昇し、循環が回復するまでの時間を循環回復時間と言う。心室細動の原因疾患によって異なるが、通常は除細動後、洞調律に復帰しても1−2分は低血圧状態が持続して、この間、心臓マッサージを行わなければ、再度、心室細動になる可能性がある。
  AEDにて「除細動の必要がない」と音声指示があっても、本人が心臓マッサージを痛がり、意識が出るまで、もしくは救急隊が到着するまで心肺蘇生法を継続することが必要である。

5.AED(G2005方式)による救命:2例目


 
 
AEDによる2回の解析にて心室細動を判定し、除細動の必要の指示と同時に除細動エネルギーの充電を開始した。
  G2005プロトコールに従ったAED(G2005方式)では、1回目200ジュールの2相性(biphasic)放電を行った後、すぐにCPRを行うように指示がでる。
  1回目の除細動後に房室結節からの心拍80/分前後の接合部調律が出ている。1回目除細動後2分でAEDがリズム解析を行い、「除細動は必要なし」の音声を発した。この時には、正常洞調律に回復していた。
  この例では、会話中に突然倒れ、意識が朦朧状態で、脈も微弱になった「脈無し心室頻拍」の状態で、心臓マッサージを行いながらAEDの到着を待った。救助者はAEDの電極パッドを貼り付け、AEDによる1回目の除細動が成功した。除細動直前の心電図は心室細動であったが、心室細動に陥った時間が短かったことが推測された。除細動後の人工呼吸、心臓マッサージを行っていなかったが、早期に自己調律が復帰し、循環の回復が見られ、救急車の到着前に意識が回復し、救急車内では会話ができるほどであった。

6.AED使用上の注意:「離れて! 離れて!」の安全確認の重要性
 
AEDは非医療従事者(一般人)が使用することが前提となっている。一般人にとって、目の前で突然、人が倒れ、誰もがパニックに陥るのは当たり前である。
  G2005によるAEDを使用した心肺蘇生法は、誰もができるより簡便な方法に変更された。 パニック状態の中で、AEDによる音声指示は、誰もが同じ救命手順を行える有力な手段である。
  紹介した2例の救命例を見ると、1例目は心肺蘇生を行いながら、AEDの電極パッドを貼り付け、音声指示に従い、2回目の除細動にて救命できた適切かつ冷静な救命行動であった。
  2例目は、G2005のガイドラインに従って、意識消失後にすぐさま心臓マッサージを行い、早期にAEDによる除細動を行った救命例で、救急車内で会話ができた回復を見せた。
  しかしながら、入手したAED救命例の中に、電極パッドを貼り付けて、「オレンジ(除細動)ボタンを押してください」の除細動の指示が出ているにもかかわらず、除細動ボタンを押せなかった事例があった。
  パニックに陥った家族、同僚が患者から離れず、救助者は危険なので除細動ボタンを押すことができなかった。結局、ショック・タイムアウトとなり、エネルギーの内部放電が3回繰り返した。救助に駆けつけた別のAED訓練者が、「離れて! 離れて!」と叫び、患者から家族、同僚を離し、4回目にようやく除細動ボタンを押し救命できた。この間、3分20秒の時間ロスがあった。

7.AEDは、除細動時に高圧・高電流が流れる医療機器である。
  従来、除細動は医師のみが行うことができる医療行為で、除細動エネルギーは1200ボルト、20アンペアの電流が瞬間に流れ、救助者が患者に接触していると感電の危険性がある。医療の現場では、除細動は医師が除細動パドルを患者の胸壁に当て、モニター上で心室細動を診断し、周りの救助者の安全確認を行ってから除細動ボタンを押している。
  AEDは心室細動を自動認識し、除細動エネルギーを自動充電する機器であるが、最後の除細動ボタンは手動で押さなければならない。除細動時の高圧・高電流からの救助者の安全を守る手段は、AEDからの「離れてください」の音声指示に従い、救助者は患者から救助に参加している他の救助者、家族、同僚が離れていることを確認することである。
  別の見方をすれば、AEDが「離れてください」と音声指示を発したなら、救助者は、患者から周りの人が離れていることを確認して除細動放電ボタンを押さなければならない。パニック状態で患者に救助者、家族、同僚が触っている場合には、除細動は感電の危険性がある。
  AEDは、心室細動を自動認識すると自動的に「除細動の必要があります」と音声指示があり、充電が開始される。充電が終了すると「オレンジ(除細動)ボタンを押してください」と音声指示がある。もし、時間内に除細動ボタンが押されない場合には、ショック・タイムアウトとして内部放電する仕組みになっている。
  AEDの体動センサーは、胸郭インピーダンスにより心臓マッサージなどの体動をキャッチし、体動時には解析を中断し心室細動を誤認識しない仕組みになっている。しかし、心室細動を認識し、自動的に充電が開始し、充電が終了した時点では、除細動ボタンを押せば、患者に周りの人が接触している状態でもショックは実行される。この点の安全機能は備わっていない。
  AEDは2回、「離れてください」の音声指示がある。最初の「患者に触れないでください」は、心室細動の自動認識の時に体動による誤認識を防止するためで、AEDにも体動センサーが体動をキャッチすると心電図解析は中断する機能が備わっている。2回目の「患者から離れてください」は、救助者、周りの人を高圧・高電流から身を守るためである。
  AEDの講習会で指導者は、受講者に「患者に触れないでください」「患者から離れてください」の音声の意味を充分に理解してもらう必要がある。「離れてください」の音声指示に対して、救助者は、大きな声で「離れて! 離れて!」と叫び、周囲の人は全員、「離れて! 離れて!」を了解したサインとして「ホールドアップ」の両手を上に上げたサインで答える。救助者は、そのサインを確認して除細動ボタンを押す。
  AEDを使用する時に、やはり、AED操作を充分に習得し、自信を持って、周囲の人に危険回避の指示を出せるリーダーが必要である.




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